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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)789号 判決

原告

松崎一男

被告

須濱聖志

主文

一  被告は、原告に対し、金六三万〇〇三四円及びこれに対する平成四年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その三を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金一〇〇万二六五八円及びこれに対する平成四年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故の発生)

次のとおりの交通事故が発生した(以下「本件事故」という)。

(一) 日時 平成四年一〇月一四日午前六時四五分頃

(二) 場所 神戸市北区有野町唐櫃一二四五番地先県道上(以下「本件事故現場」という)

(三) 態様 原告が普通乗用自動車(以下「原告車」という)を運転し、前記道路を直進して信号機の設置されている交差点(以下「本件交差点」という)を青信号に従つて通過しようとした際、同交差点内の対向車線上で右折待ちのために停止していた被告運転にかかる自動車(以下「被告車」という)が原告車の直前で突然右折発進したため、原告がこれとの衝突を避けようとして左に転把した結果、原告車が道路左端のガードレールに衝突し、破損した。

2  (被告の責任)

被告は、対向直進車の進行を妨害しないよう右折進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、原告車が被告車の側方を通過する直前に、突然右折発進した過失により、本件事故を惹起した。

よつて、被告は、民法七〇九条に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  (損害)

原告は、本件事故による原告車破損の結果、次のとおりの損害を被つた。

(一) 修理費 金六〇万二〇四五円

(二) 代車使用料 金一二万円

(三) 評価損 金一八万〇六一三円

原告車は、初度登録が平成四年六月二六日、原告への納車が同年七月であり、本件事故当時は納車後三か月の新車であつたところ、本件事故後の修理によつても、ハンドルが右に取られる、エンジン作動中に雑音がする、ボンネツトの右側が膨らんで浮いたままの状態である等の障害が残存しているため、いわゆる事故車として、車両価値が相当低下するに至つた。

これに伴う原告車のいわゆる評価損は、前記修理費の三割を下回ることはない。

(四) 弁護士費用 金一〇万円

(以上の合計) 金一〇〇万二六五八円

4  よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、金一〇〇〇万二六五八円及びこれに対する本件事故日である平成四年一〇月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、本件事故発生の日時、場所に関する事実及び態様のうち本件交差点に信号機が設置されていること、原告車が道路左端のガードレールに衝突したことは認め、その余の事実は否認ないし不知。

2  同2、3の事実はすべて争う。

原告主張の損害は、いずれも過大に過ぎるところ、修理費については本件事故による修理以外の不要なものが含まれている可能性があるし、また、代車使用料についてはせいぜい実際の修理期間に見合う一週間分に限られるべきであるし、さらに、評価損については、そもそも原告車の価格(交換価値)の低下を客観的に裏付けるだけの証拠がない上、原告自身、修理後の原告車を毎日通勤のために使用しているというのであるから、損害賠償の対象となるだけの車両の外観、性能上の障害が生じているとは考えられない。

三  被告の主張

1  (被告の無過失)

(一) 被告は、本件交差点手前において、右折合図の上右折車線に移つて進行する際、対向して進行する原告車を認めたため、原告車を先にやり過ごしてから右折しようと考え、青信号に従いながら、減速徐行しつつ、同交差点中央付近にまで進行したところ、原告車が被告車とすれ違いざまにスリツプしてガードレールに衝突したのである。

被告は、本件交差点内で停止していたことはなく、また、右折を開始したのは原告車が被告車の側を通過する途中のこと(両車両の各前部ボンネツトがすれ違うくらいの状態)であり、原告車が通り過ぎたのちにその後方を進行して右折を終えたのであつて、被告車が原告車の直前で突然右折発進したというような事実はないから、被告車が原告車の進行を妨げたものではない。

(二) 原告は、被告が原告からクラクシヨンを鳴らされたことに対する嫌がらせとして原告車の直前で右折発進した旨主張するが、嫌がらせといえども、被告にとつても衝突事故の発生と被告車の損傷を招くことになるような危険な行為を行うことはあり得ないし、また、原告は、被告がその右折先の地点で被告車の到着を待つている勤務先従業員のことに気をとられていた旨主張するが、そのような事実はない。

(三) 本件事故当時、雨が降つていて路面が濡れていたところ、本件事故は、原告がそのような路面状況のもとで必要のないブレーキをかけ、左にハンドルを切つたためにスリツプして惹起した自損事故というほかない。

原告は、原告がブレーキをかけ左転把を行わなければ、原告車と被告車は衝突していたように主張するが、実際には、被告車は右折開始後原告車に衝突することなくその後方を通り過ぎているのであるから、原告としてはブレーキをかけたり左に転把したりする必要はなく、そのままの速度か又は加速して直進すれば足りたのである。

(四) それゆえ、本件事故の発生について、被告には過失はない。

2  (過失相殺)

仮に、本件事故の発生につき被告に何らかの過失があつたとしても、前記1の本件事故の発生状況、原告と被告の各運転方法等からすれば、本件事故の主たる原因は原告の運転方法にあるというべきであるから、原告の損害額の算定に当たつて、大幅な過失相殺がされるべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否と反論

1  被告主張の事実はすべて否認し、本件事故の責任が原告にあるとし、あるいは少なくとも過失相殺がされるべきであるとする被告の主張は争う。

2  本件事故は、被告車が前記のとおり原告車の直前で突然右折発進したためこれとの衝突を避けようとした原告車がガードレールに衝突して発生したものであり、被告の一方的過失によるものである。

原告としては、被告車のそのような右折発進を予見することはできないし、その際、左転把するしか被告車との衝突を回避する方法はなかつたから、原告には何ら過失はない。

3  原告は、本件事故以前、無事故の優良職業運転手であり、直線道路である前記道路を毎日通勤路として利用していたのであるから、出勤時刻までに時間的余裕のあつた中で、時速四〇キロメートル程度の速度で本件事故現場を進行するに当たり、被告さえ通常の運転をしていたのであれば、本件事故を起こすようなことはあり得ないし、そもそも自損事故を起こすことなどは全く考えられない。

本件事故発生については、右折をしようとしていた被告が直進中の原告から二、三回クラクシヨンを鳴らされ、本件交差点内での停止を余儀なくされたことに立腹し、その嫌がらせとして、原告に対し右折発進をしかけた可能性が高いし、あるいは、被告がその勤務先従業員の送迎途中であつたため、同送迎地点が本件事故現場から右折先方向に見通すことができたことから、同方向に気をとられ、対向する原告車の動静の注意を怠り、漫然と右折発進を行つた可能性も高い。

したがつて、本件事故の発生につき、原告には何ら過失はない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生状況

1  まず、本件事故発生の日時、場所に関する事実及び本件交差点に信号機が設置されていること、原告車が道路左端のガードレールに衝突したことについては当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実と証拠(甲一、四、五号証、検甲一、二号証、三号証の一・二、四号証、乙一、二号証、検乙一号証(写真二〇枚)、原告及び被告[後記採用しない部分を除く。]本人の各供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  本件交差点は、概ね東西にわたる道路にその南方から概ね南北にわたる道路が交差するT字型交差点であり、その南詰と西詰には横断歩道があり、また、同交差点には信号機が設置されている。

(二)  東西道路は、本件交差点付近では見通しの良い直線道路であり、同交差点の約五〇メートル東方付近からは南側にカーブしている。なお、制限速度は、時速四〇キロメートルとされている。

東西道路は、片側各一車線であるが、本件交差点付近においては、その東側は、幅員約三メートルの東行車線、幅員約二メートルのゼブラゾーンと幅員約四・七メートルの西行車線(うち約一・五メートルは路線バスの発着スペース分)からなつており、また、その西側は、幅員約二・七五メートルの東行車線、幅員約二・三メートルの右折車線と幅員約三メートルの西行車線からなつている。

そして、これら西行車線の南側には歩道とを区切るガードレールが設置されている。

(三)  原告は、前記日時頃、原告肩書地の自宅から神戸市東灘区内の勤務先(ミキサー運転手として稼働)に向かうため、原告車(車幅一・六九メートル)を運転し、毎日の通勤路である東西道路の西行車線を進行し、本件交差点を直進通過しようとしていたが、前記カーブを曲がつた地点では時速約四〇キロメートルの速度で進行していた。

(四)  原告は、右の地点で、本件交差点西方の右折車線を対向して進行する被告車を前方約九〇メートル付近に発見し、さらに約三五メートル西進した地点で、被告車が同交差点をゆつくりと右折する様子であつたため、被告車の右折よりも先に同交差点を通過しようと考え、クラクシヨンを二、三回鳴らした上、直進を続けて同交差点内に進入した。

(五)  一方、被告は、その頃、勤務先(有馬温泉のホテル)の他の従業員の送迎のため、被告車(普通乗用自動車)を運転して東行車線を進行していたが、本件交差点を右折の上南北道路を南進して同交差点南方約五〇メートルの地点にある従業員の乗車待機場所に向かおうとしていた(なお、同待機場所は同交差点から見通すことができる位置にある。)。

(六)  そして、被告は、右折のため同合図をしたのち、本件交差点西方約四〇メートルの地点で、その前方約八〇メートル付近を対向して進行する原告車を発見したが、徐々に減速しながら右折車線に移り、ゆつくりと進行した。

(七)  被告は、時速五ないし一〇キロメートルの速度で、本件交差点西詰の停止線付近に達したとき、原告車が同交差点に接近してきているのを認めたものの、原告の鳴らした前記クラクシヨンには特に対応しないまま、原告車が被告車よりも先に同交差点内を直進通過するであろうとの見込みに基づき、のろのろと同交差点中央付近にまで進んだ。

(八)  原告は、前記(四)のとおり本件交差点内に進入したのち、原告車と被告車の各前部ボンネツト付近がすれ違うような状態にまで接近した地点で、被告車が同交差点中央付近からさらに右折しようとする様子を認めたため、とつさにブレーキをかけるとともに左に転把した結果、両車両はすれ違つて接触することはなかつたものの、原告車については左転把によつて同交差点通過直後に西行車線南側のガードレールに衝突し、破損した。

(九)  被告は、原告車とのすれ違い直後に右折を完了したが、その際、原告車の急ブレーキ音を聞いたものの、そのまま南北道路を南進したところ、間もなく原告が原告車を降りて駆け付けてきたため、最寄りの唐櫃派出所に一緒に出向き、それぞれが警察官に事情を説明した。

(一〇)  なお、本件事故当時、小雨が降つており、路面は濡れていた。

また、原告車と被告車が本件交差点内に進入するに当たり、いずれの対面信号も青色表示であつたほか、対向して進行していた両車両の間には他の進行車両はなく、交通量は少なかつた。

2  以上の各事実が認められ、被告本人の供述中被告車が右折を始めたときには原告車は既に通り過ぎていたとする部分は、原告本人の供述と右認定にかかる事実関係に照らして直ちには採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、原告の主張中、被告は原告の鳴らしたクラクシヨンに対する嫌がらせとして、あるいは被告車を待つ従業員の待機する方向に気をとられていたとする部分については、クラクシヨンが鳴らされたこと及び前記待機場所が本件交差点から見通すことができる位置関係にあることはいずれも前記認定のとおりではあるけれども、それ以上に、被告の右のような主観的意図を裏付けるものとしては原告本人の述べる推測しかないのであり、被告のこれを否定する旨の供述と対比させて考えるとき、原告本人の右推測だけから原告主張にかかるような被告の意図を推認するまでには至らないから、原告の右主張は採用できない。

二  被告の責任

1  前記認定の事実関係によると、被告は、本件交差点を右折するに当たり、対向する原告車が本件交差点を直進通過しようとするのを認めたのであるから、原告車に対して危険を防止するためにその速度又は方向を急に変更しなければならないことになるおそれを生じさせるような進行妨害をしてはならない注意義務(道路交通法三七条、二条一項二二号所定)があつたにもかかわらず、これを怠り、同交差点内に進入した後、同交差点内を直進通過中の原告車の直前において、右折を行つた過失により、原告車と被告車との衝突の危険を発生せしめ、その結果、原告の左転把を余儀なくさせ、本件事故を惹起させたものといわなければならない。

2(一)  被告は、この点につき、本件事故は、原告が路面が濡れていた状況のもとで必要のないブレーキをかけ左転把をしたためにスリツプして惹起した自損事故であるとして、原告の運転操作ミスがその原因であるように主張する。

しかしながら、前記認定の事実関係に基づくと、被告が前記のような右折方法を採らなければ、原告としては、右のようにブレーキをかけ左転把を行う必要がなかつたのであるから、原告が右措置を講じたのは被告の行為が原因であることは明らかであるし、また、本件のような状況のもとで、原告側が衝突回避のために講じ得る方法を色々と勘案してみても、原告の採つた右措置をもつて運転操作ミスを犯したとは到底いえず、それによる自損事故とみることはできないから、被告の右主張は採用できない。

(二)  また、被告は、被告車が実際には右折開始後に原告車と衝突することなくその後方を通り過ぎていることをもつて、両車両が衝突する危険はなかつた旨主張するが、前記認定にかかる両車両の位置と距離等による接近状況からすれば、客観的に右危険が存在したことは否定できないところであつて、被告の右主張は採用の限りでない。

(三)  そして、他に以上の認定判断を左右するに足りるだけの証拠はない。

3  以上によれば、被告は、民法七〇九条により、原告が本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任を免れない。

三  原告の損害額の算定

1  修理費 金六〇万二〇四五円

証拠(甲二、五号証、原告本人の供述)と弁論の全趣旨によると、原告車(日産ブルーバード)は、初度登録が平成四年六月、原告への納車が同年七月であり、本件事故当時、右納車から約三か月が経過していたこと、原告は、原告車前部が本件事故によりガードレールと衝突し、破損したため、同年一一月二二日頃、兵庫日産自動車株式会社に対し原告車を預託してその修理を依頼し、同月末頃に修理の終わつた原告車を受領し、その後、同社に対し修理費として金六〇万二〇四五円(消費税含)を支払つたこと、右修理に際しては、破損したフロントバンパー、フロントグリル、ラジエーター等の交換のほか、各部品の交換、板金や塗装とともに、エンジン、ミツシヨン、足回りの点検等が行われたことが認められる。

右事実によると、同社の行つた修理は本件事故によつて原告車に生じた損傷の修理として必要かつ相当なものであつたと認められ、したがつて、原告が同社に対して支払つた修理費全額は、本件事故による修理費として相当なものと認めるべきである。

被告は、この点につき、右修理費の中には、本件事故による修理以外の不要なものが含まれている可能性がある旨主張するが、被告自身この点についての具体的な主張、立証を何ら行つていないのであり、被告の右主張は採用の限りでない。

2  代車使用料 金九万八〇〇〇円

証拠(甲三号証、原告本人の供述)によると、原告は、本件事故の翌日ころから原告車の修理が終了するまでの間の約一か月の期間にわたつて、前記兵庫日産からレンタカーを借り、これを原告車の代わりに通勤車として使用したこと、そして、原告は、同社に対し、右代車使用料として一日金七〇〇〇円の割合により合計金一二万円を支払つたことが認められる。

ところで、原告は、右金員全額を代車使用料として請求するけれども、原告車の修理に実際に要した日数は、前記一一月二二日頃から同月末までの一〇日間程度であることは前記1で認定したところから明らかであり、また、原告本人の供述によれば、原告が同社に対し原告車を修理に出すのが遅れたのは、修理をめぐつて保険会社と交渉していたためであることが認められ、これらの事実と前記認定にかかる修理内容等を勘案すると、右一か月に及ぶ全期間を原告車の修理に通常要する期間であるとまではにわかに考え難く、本件事故と相当因果関係があると認めるべき代車使用期間は二週間とするのが相当である。

それゆえ、一日金七〇〇〇円の割合によつて右二週間分の代車使用料を算定すると、金九万八〇〇〇円となる。

したがつて、原告の代車使用料の請求は、右の限度でのみ理由がある。

3  評価損 金六万円

(一)  原告は、原告車につき、前記修理費の三割に当たる金額をいわゆる評価損として請求している。

(二)  そこで、検討するに、交通事故により破損した車両については、その後の破損箇所の修理によつても、外観や性能面においてなお原状回復が十分でないと具体的に認められる場合には、価格(交換価値)の低下が生じているものとして、いわゆる評価損を認める余地があると解するのが相当である。

これを本件についてみると、原告車が本件事故当時納車後約三か月の新車であつたことは前記認定のとおりであり、また、証拠(甲二号証、原告本人の供述)によると、原告が原告車を新車として購入したときの価格は約金一八〇万円であつたこと、原告車の本件事故当時における走行距離は四一六六キロメートル程度にすぎなかつたこと、原告は、前記修理後も、原告車を毎日通勤に使用しているけれども、その運転に際し、ハンドルが右にとられたり、エンジン作動中に雑音がすることを感じたほか、ボンネツトの右側が膨らんで浮いたままの状態にあること、そして、原告は、前記兵庫日産の修理担当者に対しこれらの点を伝えたところ、その後の修理により、ハンドルの点については多少改善されたものの、その余の点についてはそれ以上の改善は無理である旨言われたことが認められる。

右認定にかかる本件事故前と修理後における原告車の状況を対比して考えると、原告車は、前記1でみた相当の修理がされたのちにおいても、なお外観、性能面において原状回復のされていない障害が具体的に存在すると認めるのが相当であり、そして、これらの程度と原告車が本件事故当時納車後三か月の新車であり、走行距離も少なかつたこと、前記修理の内容と修理費金額等をも総合すれば、本件事故による評価損として、前記修理費の約一割程度に相当する金六万円の価格低下が生じたと推認することができるというべきである。

したがつて、原告の評価損の請求は、右の限度でのみ理由がある。

四  過失相殺

1  前記二で認定した事実関係及び三で判示した被告の過失の内容を総合して考えると、原告についても、本件交差点を直進するに当たり、被告車が既に右折の様子を示しているのを認めていたのであるから、そのような状況に応じ、対向右折車の動静を特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行すべき注意義務(道路交通法三六条四項所定)があつたにもかかわらず、クラクシヨンを鳴らしたものの、そのままの速度で進行した点において右注意義務の履行につき欠ける点があつたといわざるを得ず、これが本件事故発生に寄与したことは否定できないところである。

そして、原告の右落度のほか、これまでに認定説示した本件事故の発生状況、被告の過失の内容、原告においてはクラクシヨンを鳴らしていること、原告が被告車との衝突回避に際して講じた措置、両車両が実際には接触することなくすれ違つていること、道路の状況等の諸事情を総合して考えると、原告の損害額の算定に当たつては、過失相殺として、その二五パーセントを減額するのが相当である。

よつて、被告の過失相殺の抗弁は、この限度で理由がある。

2  そこで、前記三で算定した損害額合計金七六万〇〇四五円につき、その二五パーセントを減ずると、金五七万〇〇三四円となる(円未満四捨五入)。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過と認容額等からすると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用は、金六万円が相当である。

六  結論

よつて、原告の本訴請求は、金六三万〇〇三四円及びこれに対する本件事故日である平成四年一〇月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

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